その変化は想像を超える速度で進んでいくでしょう。しかし私は、その技術革新そのものよりも、もっと大きな変化が始まっていると感じています。それは、「人間とは何か」が改めて問われる時代になったことです。この問いこそが、AI革命の本質だと考えています。
知識を蓄えること。情報を整理すること。効率を高めること。そうした能力の多くをAIは担うようになるでしょう。だからこそ、人間にしか果たせない役割が、かつてないほど重要になります。人を思いやること、誰かの心を震わせること、まだ誰も見たことのない価値を創り出すこと、異なる価値観を持つ人々と信頼を築き、ともに未来を切り拓くこと。人間の価値とは、知識の量ではありません。人と人との間に、新しい希望を生み出す力です。
TBSグループは創業以来、一貫して、その「人」と向き合ってきました。報道は、命と暮らしを守るために。ドラマやバラエティは、人々に笑顔や涙、勇気や希望を届けるために。スポーツは、人が限界に挑む姿を伝え、その尊さを分かち合うために。私たちが七十五年にわたり磨き続けてきたものは、番組を制作する技術だけではありません。人の喜びを理解し、人の悲しみに寄り添い、人の挑戦を信じる力です。それこそが、TBSグループの原点であり、最も大切な資産です。AIが進化するほど、この力の価値は、むしろ大きくなる。私は、そのように確信しています。
AIは、人間の能力を大きく広げてくれるでしょう。しかし、幸福そのものを創り出すことはできません。幸福は、人と人との信頼から生まれます。思いやりから生まれます。挑戦から生まれます。そして、未来への希望につながっていきます。だから私たちは、AIを恐れません。徹底的に活用します。しかし、AIを目的にはしません。目的は、あくまでも人間の幸福です。テクノロジーは、人を幸せにするための手段であるべきだと考えています。
私は、TBSグループを単なる放送会社として成長させたいとは考えていません。目指すのは、人々の心を動かし、社会に新たな価値を生み出し、人と社会のウェルビーイングを創造する企業グループです。
AIが未来を変える時代だからこそ、未来を創るのは人である。その信念こそが、私の経営の原点であり、すべての戦略の出発点です。
私はAI革命の本質を、テクノロジーの進歩ではなく、「人間の価値そのものが問われる時代の到来」だと考えています。では、その時代に、TBSグループはどのような企業であるべきなのか。私の答えは明確です。変化に適応する企業ではなく、自ら変化を創り出す企業になること。もちろん、放送という事業の価値が失われるとは考えていません。地上波放送は、災害時には命を守り、平時には社会をつなぐ、かけがえのない公共的インフラです。その使命は、これからも変わることはありません。
一方で、人々がコンテンツに触れる方法は、大きく変わりました。
視聴者は、放送時間に合わせるのではなく、自ら見たいものを、見たい時に選ぶ時代になりました。広告市場もまた、大きな転換期を迎えています。AIの進化は、マーケティングそのものの姿さえ変えようとしています。こうした変化を前にして、過去の成功体験にとどまる企業に未来はありません。変化を恐れないこと。むしろ、自ら変化の先頭に立つこと。それこそが、今、経営者に求められている責任だと考えています。だから私は、もはやTBSグループを「放送会社」という枠で捉えていません。
私たちの本当の強みは、放送設備でも、放送免許でもありません。人の心を深く理解し、新しい体験や感動を生み出す力です。七十五年にわたり積み重ねてきたその力は、放送だけに生かされるものではありません。世界へ届けることもできる。新しいIPを育てることもできる。教育へ広げることもできる。街そのものを、新しい体験の舞台へ変えることもできる。私は、その可能性を信じています。だからこそTBSグループのすべての事業を「コンテンツ」という視点で捉えています。
コンテンツとは、番組だけを意味する言葉ではありません。教育もコンテンツです。イベントもコンテンツです。街づくりも、生活サービスも、人々に新しい体験や価値を届けるものであれば、すべてコンテンツです。人を理解し、社会を理解し、新しい価値を創造する。その本質は変わりません。この「コンテンツを核とした経営」こそが、 TBSグループの未来を切り拓くと確信しています。
未来は、偶然やって来るものではありません。待っていて与えられるものでもありません。自ら選び、自ら創るものです。だから私は、変化を恐れません。AI革命という歴史的な転換点を、新たな成長への出発点に変えていきます。そのために、経営資源を未来へ向けて大胆に振り向ける決断をしました。
世界へ挑戦すること。新たなIPを育てること。そして、未来を担う人を育てること。この三つを、これからのTBSグループの成長を支える柱として位置づけています。その挑戦について、お話しします。
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